2章.日本における臨床心理学(心理臨床)の性質と現状
2章. 日本における臨床心理学(心理臨床)の性質と現状
参考・引用文献
下山晴彦 丹野義彦―編
「講座臨床心理学1.臨床心理学とは何か」東京大学出版会
下山晴彦
1部.臨床心理学の専門性
4章.臨床心理学の専門性と教育
2節.臨床心理学の専門性と社会
をまとめてみました。
1節.臨床心理士とは何か
1章では、臨床心理学というものが実践活動・研究活動・専門活動により成り立っている学問であり、心理臨床とは、広くこの専門領域と心理援助を行う実践業務を包括するものであるということがお解りいただけたのではないのかと思う。次に、臨床心理士とはどのような存在なのか、ということに触れたい。
ディスカッションのeconomisは科学をBERをことはできません
まず、「臨床心理士」の本業として、「心理援助を行う者」という側面から臨床心理士というものにアプローチしてみたいと思う。医学的治療モデルにおいては、心理的問題は"病理"として捉えられ、医師の管理、指導の下"治療"の対象とされてきた。しかし、臨床心理学は、病理の治療を目的とした学問ではない。広く心理的問題の解決を"援助"することを目的とした学問である。症状を呈していなくても、心理的援助を必要としている人は数多くいる。もちろん、心理的問題の中には精神医学的病理が含まれる場合もある。そのような場合、臨床心理学では、「病理を抱えてどのように生きるのか」という心理面での問� �解決がテーマとなる。心理的援助によって、結果的に病理が治癒することがあったとしても、病理に対して治療を行うのは飽くまでも医学であり、医師である。
症状を呈していても、それはその人のパーソナリティの一部であり、健康な部分も併せもっている。従って、病理を特定化して疾病の診断(diagno‐sis)を行う精神医学に対して、臨床心理学は患者の「病理経験としての病(illness)」を扱う。つまり、患者の病理経験についての語り(illness narrative)を聴くことを通して、患者が自己の病を受け容れ、病を抱えつつ自己の人生を生きられるよう心理的な援助を行うのが臨床心理学である。その点で臨床心理学の専門性の基本理念となるのは、医学的治療ではなく、「心理学的援助」である。しかし、実践活動において、精� �医学的病理が含まれる場合もあり、その為に臨床心理士は、精神医学の診断や薬物両方などの治療法をしっかり学び、精神医学との協働関係を築かなければならない。
臨床心理士は、医師を補助する医療技術者ではなく、独自の理論と方法を持つ援助専門職(helping profession)として定義できる。援助専門職の基本概念は、個人の主体性を尊重する人間性心理学(ロジャーズなど)を基礎としている(Combs et al.,1978)が、精神分析や認知行動療法の方法も取り入れた統合的なカウンセリング技法として理論化されている(Egan,1975;Carkhuff,1987)。また、援助専門職は、個人についてだけでなく、グループ、家族、コミュニティについても援助的活動を行う専門家として発展している(Corey&Corey,1998)。アメリカの臨床心理士は� �このような援助専門職として法律で制度化され、社会的な地位を確立している。(Pryzwansky&Wendt,1999)。
古い発想の医学的治療モデルでは、病院における病理管理を前提とした医師中心の管理システムが基本となっていた。それに対して、援助モデルに基づくヘルスケアやメンタルヘルスの活動では、「社会的に差別や搾取を受けたり、自らコントロールしていく力を奪われた人々が、そのコントロールを取り戻すプロセス」を意味するエンパワーメント(empowerment)が重要な意味をもつ(久木田・渡辺,1998)。そこでは、「権限を委譲し、自由裁量を与える」ことによってコミュニティに存在する様々な資源を活用し、それらが協働してエンパワーメントを実現する援助システムを構成していくことが目指される。従って、メンタル� ��ルス専門家として中心的役割を担うのは、臨床心理士などの援助専門職ということになる(Marzillier&Hall,1999;O'Donohue&Fisher,1999)。
様々な援助専門職が協働して新たなメンタルヘルスの社会システムを構成していく際のモデルとなるのが、生物―心理―社会モデル(bio‐psycho‐social model)である。そこでは、医師や看護婦職は生物(身体)的次元、臨床心理士は心理的次元、社会福祉士は社会(制度)的次元というように、それぞれが役割分担をしつつ協働してメンタルヘルスの援助システムを構成していくことが目指される。そのようなメンタルヘルスの援助システムの中で、心理学的アセスメントと、それに基づく臨床的介入の方法を備え、実践的活動を実証的に分析評価する能力をも兼ね備えている臨床心理士の果す 専門的役割は、メンタルヘルスの援助システムにおいて全体の活動方針を定め、活動を運営するマネージャー、あるいはオーガナイザーとして機能することになる。
2節.臨床心理士に必要とされる専門技能と訓練
4節.実践活動の専門性と訓練
をまとめてみました。
4次元とは何か
臨床心理士が実践活動を遂行する為に必要な技能(skill)は,多種多様である。かつてのように特定の学派に所属し、その学派が推奨する心理療法の技法を習得するのであれば、学習過程はある程度の一貫性を持っていたが、しかし、専門活動としての臨床心理学の教育では、様々な理論モデルに基づく技能をひと通り学習することが求められる。深層心理的心理療法(精神分析・ユング心理学など)に加えて学習理論に基づく行動療法、個人療法だけでなく家族療法などの社会システムに介入する技能、心理療法だけでなく、家族療法などの社会システムに介入する技能、心理療法だけでなくコンサルテーションやネットワーキングなどのコミュニティ援助の技能、そして近� �発展がめざましいアセスメント技能も含めると、学生が習得しなければならない実践活動の技能は多岐にわたる。
したがって、臨床心理学の実践技能の訓練プログラムを構成するためには、多種多様な技能に共通する基礎技能を土台とし、その上にそれぞれの技能を系統的に訓練する統合的なシステムが必要となる。
臨床心理士の活動の全体を視野に入れるためには、コミュニケーション、ケースマネージメント、システムオーガニゼーションの実践技能を、3次元に分類し、それらを段階的、組織的に教育・訓練することで、実践活動の全体を視野に入れたカリキュラムを構成することが可能となる。これらの3次元の技能は、それぞれが独立して機能しているのではない。実際の実践活動では、コミュニケーション、ケースマ ネージメント、システムオーガニゼーションの3次元が重なり合って機能している。したがって訓練プログラムでは、学習の段階が上がるにしたがって高度な技能を循環的に学習していくシステムとなる。
それでは、これらの技能はどのようなものなのだろうか?
@ コミュニケーションの技能
臨床心理学の活動では、単に共感的コミュニケーションに限らない多様なコミュニケーションを選択し、適宜組み合わせて使いこなす技能が求められる。
【 第一段階 】
第一段階の基礎学習においては、基本的なコミュニケーション技能の訓練を行う。最初は、援助的関係を形成する共感的コミュニケーション技能を、ロールプレイングなどを通して実習する。これが、いわゆるカウンセリングの技能に相当する。
【 第二段階 】
第二段階では、共感的コミュニケーションを基礎として、事例に介入していく為のコミュニケーション技能を学ぶ。そこでは、まず事例の問題をアセスメント(査定)するためのコミュニケーション技能の習得が必要となる(下山,2000c)。特に初回面接において、診断や検査を含めた査定面接を行うためのコミュニケーション技能を身に付けなければならない。
【 第三段階 】
第三段階では、個々の事例の問題に介入するための特別なコミュニケーションギ脳を学ぶことになる。そこでは、様々なコミュニケーション技能を統合して、事例の状態に合わせた介入の方法を組み立てていくことがテーマとなる(Havens,1986)。これは、ケースマネージメントの技能を交えた、より複雑で専門的なコミュ ニケーションであり、実際に事例を担当する臨床実習を通しての訓練となる。〈精神分析の転移―逆転移に対応するコミュニケーション技能、認知行動療法のセルフモニタリングを促進させる技能、家族療法のパラドックスを利用したコミュニケーション技法、コミュニティ心理学の危機介入の為のコミュニケーション技法、ブリーフセラピー(短期療法)で重視される問題解決の為のコミュニケーション技法等〉
【 第四段階 】
現場研修を体験することで、臨床心理学の活動を社会的システムに位置付けていくシステムオーガニゼーションのためのコミュニケーション技能を学んでいく。この段階では、組織運営や他職種との連携などを行う際に必要となる社会関係を構成する為のコミュニケーション技能を体験的に学習す� ��。
A ケースマネージメントの技能
議論を実行する方法
ケースマネージメントの技能の基礎となるのは、異常心理学の知識、精神分析や家族療法といった様々な介入理論などである。それらの知識や理論などを参照して、アセスメントで得られたデータから見立を形成し、実際に事例に介入することで、適切に臨床活動を運営する技能を高めることが、ケースマネージメントの技能訓練のテーマとなる。ケースマネージメントでは、異常心理学などの知識を参照して、対象となる事例の問題状況を適切に査定したうえで、それに基づいての介入の方針を定めるケースフォーミュレーションを行うことが基本となる。(下山,2001)このようなケースマネージメントの技能は、事例検討やスーパービジョンといった専門的な訓練によ� �て、習得される。その場合、単なる個人療法だけではなく、危機介入、コンサルテーションなど、社会場面への介入技能の訓練も含めることが必要となる。
B システムオーガニゼーション
システムオーガニゼーションの技能の基礎となるのは、臨床心理学の活動を全体として理解し、それを社会との関連で位置付けて行く社会意識である。したがって、臨床心理士の社会的責任および倫理、他の専門領域との連携の方法、各職域における活動の特徴等といった臨床心理学の専門活動についての学習をしておくことが前提となる。他の専門活動と連携し、臨床活動を社会的に組織化していくシステムオーガニゼーションの技能は、現場研修やインターンシップにおいて訓練される。上級の臨床心理士の活動の観察学習に加えて、 スーパービジョンを受けながら臨床現場で他の専門家と連携して実践活動をするなかで習得される。システムオーガニゼーションの技能訓練を通して、介入の為の特殊なコミュニケーション技能だけでなく、社会人としての常識的なコミュニケーションの重要性も併せて学ぶことが必要となる。それによって、社会に貢献でkりう、真の意味での高度専門職としての臨床心理士の育成が可能となる。
3節.日本の臨床心理学の現状と、欧米との比較
2部.日本の臨床心理学の発展に向けて
2章.日本の臨床心理学の課題
2節.日本の臨床心理学に関する比較研究
から
1節.日本の臨床心理学と英国との比較
日本において、臨床心理学に関する概念が曖昧である為、臨床心理学という教育を考える場合、学問の基礎とは何かとう点でコンセンサスを得るのは難しく、具体的なカリキュラムを組む段階に進めない。この点に関して、英国は概念が明確である。
英国では「臨床心理学」と「カウンセリング」は明確に分化している。大学における教育過程も、両者は全く別である。さらに、この両者の間に「心理療法」がある(Marzillier&Hall,1999)。「臨床心理学」は、学問としてとしては心理学部に属し、心理学としての実証性が重視される。活動としては、認知行動療法を中心に様々な理論を統合し、コミュニティにおける心理援助を専門的に行うことを目指す。それに対して「カウンセリング」は、教育学部に属し、Rogersが提唱し� ��人間性を重視する活動として、心理学とは離れてより広い領域に開けた人間援助の総合学を目指す。また、「心理療法」は、心理力動学派(分析的学派)などの特定の理論を前提とした活動を行うことを目指す。したがって、大学院の専門教育では「心理療法」が前面に出ることはなく、「心理療法」で重視される個々の理論は、「臨床心理学」および「カウンセリング」の大学院カリキュラムの科目として取り入れられており、「心理療法家(psycho‐therapist)]は「臨床心理学」コースや「カウンセリング」コースのスタッフとして参加している。
このように英国では、「臨床心理学」「カウンセリング」「心理療法」の三者の目的と機能は分化している。この英国の概念に基づいて日本の状況を記述した場合、三者が混在したま� �、臨床心理学が構成されていることが明らかとなる。「心理療法」を理想モデルとしながら、実際は「カウンセリング」を実質的モデルとして大多数を構成し、「臨床心理学」はほとんど機能していないというのが、日本の臨床心理学の実態である。このような複雑なねじれを含む状況が、心理臨床という用語に象徴される日本の臨床心理学の独自性の内実といえる。このねじれ現象は、日本の独自な臨床心理学の在り方を示すとともに、専門活動としての発展を難しくしている側面もある。
【 「臨床心理学」との比較 】
現在の英国の「臨床心理学」の教育課題は、NHS(National Health Service)が主導する国民健康サービスを担う専門家として、医師、看護婦、教師、ケースワーカー等の他の専門職とチームを組み、援助活動を行うとともに、そのチームのリーダーを務めることができる。「臨床心理士」の育成である(Hall,1996)。そこでは、事例の問題に関する実証的アセスメント、それに基づく介入方針の策定(case formulation)、介入、そして、介入の効果に関する評価(evaluation)という一連の作業を明確に行う技能が「臨床心理士」の基礎技能とみなされる。しかも、臨床現場は教育、福祉、医療、司法など多岐にわたるので、それぞれの現場における介入のためのコ� ��ュニティ心理学の技能も求められる(Marzillier&Hall,1999)。英国の「臨床心理学」の教育においては、現場研修を大幅に取り入れ、コミュニティにおいて活動できる社会的技能の実習を重視している。さらに、介入効果の評価や臨床活動で得られた情報を行政や利用者に伝えて行く為に調査などの心理学的研究が利用されており、研究技能も重視される。(Turpin,1995)
これと比較すると、日本の臨床心理学では、心理療法の学派の理論モデルを適用して事例を理解する傾向が強く、心理学の実証性を活動のなかに取り入れて行くことが軽視されている。日本の臨床心理学にとっては、実証性を学問の基礎として取り入れて行くことが緊急の課題となる。
【 「カウンセリング」との比較 】
英国の「カウンセリング」は、196 0年代にはRogersの理論の影響を受け、心理学者等の指導で教育が行われていた。しかし、次第に心理学から離れ、人間の援助を専門性の核とする「カウンセリング」を独自の学問として発展させてきた(Connor,1994)。1988年には、カウンセリングコースの認定基準として、実習、現場研修、スーパービジョンの時間や方法のガイドラインを定めている。さらに、1993年の改訂では、主要理論を軸にした統合(折衷)的な訓練プログラムを採用する為のガイドラインを追加している。「カウンセリング」の教育訓練にあっては、グループワークを用いて学生の人間的成長を促進するとともに、学習の評価システムを確立することに重点がおかれてきている(Johns,1998)。また、個々の学派を超えた統合的な教育プログラムの構成か、1990年代はじめか ら現在に至るまで「カウンセリング」教育の重要な論点となっている。
このような英国の「カウンセリング」教育訓練と比較し、「心理療法」が理想のモデルとなっている日本の臨床心理学にあっては、教育訓練プログラムや各学派を超えて共通する基礎技能や統合的プログラムについてはほとんど議論されていない。
2節.日本の臨床心理学と米国との比較
米国では、当初からAPA(American Psychological Association)の強い指導力の下で、英国の概念で表現するならば「臨床心理学」「カウンセリング」「心理療法」を含めた総合的な臨床心理学を構成してきた。本来「カウンセリング」や「心理療法」は、実証性を重視するアカデミックな心理学とは異質な面がある。しかし、米国の場合、1949年に臨床心理学の教育モデル� �して科学者―実践家モデル(scientist‐practitioner model)を打ち出し、「カウンセリング」や「心理療法」のもつ実践性とアカデミックな心理学のもつ実証性を併せて備えることを臨床心理学の専門性と規定した。そして、その両側面を統合する為に博士号(Ph.D.)取得を前提とする大学院の教育システムを構成した。(Plante,1999)
米国の臨床心理学の専門性は、資格取得までに最低でも6,7年はかかる高度な内容となっており、2年間の修士課程を資格取得の前提条件とする日本の実状にはそぐわないが、臨床心理学に含まれる様々な要素を分化し、統合するという点では米国の臨床心理学の在り方は参考となる。様々な要素を統合した学問として臨床心理学を発展させるためには、各要素を分化させた教育システムを構成することが必� ��となる。例えば、博士課程を経て「臨床心理学」の研究職、教育職、あるいは援助活動のマネージャーとなってその領域でリーダーシップを発揮する高度な専門職としての臨床心理士と、修士課程で「カウンセリング」を学んだ後に現場に出て専ら臨床実践に携わる実務家としての臨床心理士を分化させていくことが必要となるであろう。
4節.日本の臨床心理学のこれからの課題
3節.日本の臨床心理学の発展に向けての課題
から
@ 実践活動における課題
実践活動は、アセスメントと介入から構成される。近年、英米圏の臨床心理学では、実証的研究に裏付けられた認知行動的アセスメントが発展してきている。その為の半構造化面接や尺度が開発されている。日本の臨床心理学では、このようなアセスメント技能を取り入れることを怠ってきただけでなく、アセスメントの前提となる異常心理学、特に精神障害の分類に関する教育も重視していない。したがって、日本の臨床心理学にあっては、実証的なアセスメント技法を取り入れることが重要な課題となる。
介入に関しては、1990年代からスクールカウンセリングの導入に伴ってコンサルテーションなどのコミュニティ心理学の方法が重視されるようになり、その統合が目下の課題に� ��っているが、「心理療法」モデルを超えて、様々な理論や技法を現場のニーズに対応して応用できる統合的な方法論を確率することが課題となっている。
A 研究活動
研究活動に関しても、「心理療法」を理想モデルとすることの影響が表れ、あまりにも狭い事例研究に偏っている。今後の日本の臨床心理学にあっては、現場の活動から日本の現状に適したモデルを構成する研究が必要とされる。その点では、近年の心理学研究で注目されている質的研究法の方法論や、また統計的方法を用いた量的研究法を取り入れ、一事例研究、メタ分析,プログラム評価、アナログ研究などの心理学研究を発展させることが課題となる(下山,2000c)。これは、他領域の心理学、精神医学などの他の専門領域、そして、行政との協働関係を構� ��する上でも、必須の課題である。
B 専門活動
専門活動を構成する要素としては、専門組織、教育と訓練、規約と法律、倫理、説明責任などがある(Pryzwansky&Wendt,1999)。これらのテーマは、臨床現場において、行政組織や他の専門職と協働して活動を展開する為に、最重要課題として取り組まなければならないテーマである。
専門活動を発展させる為には、臨床心理学内部の論理を離れ、社会一般の論理に基づき、社会の視点から臨床心理学の在り方を説明し、社会制度の中に臨床心理学の活動を位置付けていくことが必要となる。したがって、専門活動を発展させる為には、その前提として社会性の発達、具体的には社会人としての人間的成長および援助専門職としての社会性の獲得が必要となる。
しかし、日� �の場合、臨床心理学の大学院に入ってくる学生は、人生経験も少ない、20代前半の若者がほとんどであり、人間的成長という点では未熟な側面を多分に抱えている。その点で社会性の獲得に向けての教育を充実させていくことが課題となる。また、臨床心理学の教育過程のなかで社会性を育成する現場研修やインターンシップの制度も全くといってよいほど整備されていない。専門活動の教育に向けて大学院と臨床現場とが協働して研修制度を確立していくことも重要な課題である。
【 まとめ 】
日本の臨床心理学の全体を構成するにあたっては、英国の「臨床心理学」のように認知行動療法を軸とする統合的なシステムを構成するよりも、むしろ、精神分析(ユングの分析心理学も含む)的な心理療法、あるいはカウンセ� �ングの伝統を生かした、援助的な二者関係を構成する技能を基礎技能とすることが、日本の臨床心理学にとっては自然である。当面のところ臨床心理学に期待される主な役割がスクールカウンセラーであることを考えるならば、「カウンセリング」の基本にある共感的援助的技能を基礎として重視する必要がある。日本では、幸いにも臨床心理学の内に
「カウンセリング」の要素が含まれて発展してきている。したがって、日本の臨床心理学にあたっては、独自の伝統を活かし、「カウンセリング」の技能を基礎とし、「心理療法」の様々な理論を介入技能の理論的背景として組み込み、それに心理学の実証性に基づくアセスメント技能とコミュニティ心理学の社会的技能を取り入れて、統合的な臨床心理学の全体像を構成することが� ��題となる。
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